前回のコラムでは、サーチファンドと様々な経営者キャリアとの比較を整理してみました。
今回は、サーチャーを目指す優秀な人材にとって比較対象になりがちな「経営者以外」のキャリア選択肢における違いを整理してみたいと思います。
比較①:報酬/インセンティブ
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サーチファンドはあくまでアントレプレナーとしての活動です。ある程度のリスクを取ることが求められる一方で、成果によっては大きなインセンティブを得られるキャリアです。従って、これまでの実績をフルに活かして活躍できる環境、例えば経験業界でのマネジメント層や、プロファームでのキャリアに比べると、ベース報酬は最大化できない可能性が高いと思われます。
一方で、リスクを取る分、うまくいったときのアップサイドが大きいのもサーチファンドの特徴です。実績を活かして高い固定報酬をもらうのではなく、投資家と一緒にリスクを取り、一緒に成功も享受するのがサーチファンドの考え方です。
比較②:身につくもの/得られるもの
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どのようなキャリアを歩んでも、それぞれ貴重な経験ができ自らの成長に結びつくことに変わりはありません。
その中でサーチファンドというキャリアの特徴は、何といっても「経営者」という立場を経験することでしょう。
「日本には経営人材が足りない」と言われて久しいですが、経営者を輩出するためには教育やトレーニングではなく、実際に経営をやってみるしかないと考えています。しかし、日本において経営経験のない人材が最初に経営者になる道は広いとは言えません。
プロファームのパートナーであってもいきなりCEOで招へいされるケースは稀ですし、ベンチャー/事業会社で活躍しても社内でCEOになれるとは限りません。現実的には、日本で最初に経営経験を積むためのパスは、時間をかけて社内で出世をするか、起業をするかの二つではないかと思います。
サーチファンドは、M&Aによって既存企業の経営者になるという経営者への新しいキャリアパスです。早いタイミングで経営者にチャレンジできるということが、サーチファンドで得られる最も大きな価値だと考えています。
比較③:働く環境、立場、人間関係
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会社は人の集まりであり、組織文化や求められる動き方は会社によって本当に様々です。自分の適性や目標を見極め、相性の良い組織、力の発揮できる立場で働くことは非常に重要です。
サーチファンドに特有の環境的要因としては、M&A後にいきなり外様社長として組織のリーダーになるという点でしょう。
社員や関係者からすると、いきなりやってきた外様社長に対し最初から100%大歓迎ということはあり得ません。拒否感まではないとしても、複雑な感情をもつのが自然な反応です。そんな中で信頼を得て、リーダーとして組織を引っ張ることができるかどうかが成功へのカギであり、求められる適性でしょう。
また、サーチファンドの投資対象となる中小企業で働く方々は、プロファームや大企業で働く方たちとは経験も強みも異なります。プロファームや大企業の人材はある種均質であるためコミュニケーションコストが低いことが多いですが、サーチファンド活動で直面する壁の一つが異なる文化・経験をもつ人たちとのコミュニケーションです。
それぞれの良さ・強みを理解し、壁をつくらず一体感を醸成することは、サーチファンドで経営者になる人に求められる動き方だといえるでしょう。
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