本コラムは、2019年に当社代表伊藤公健が個人のnoteで掲載した経験談を元に、開示情報の追加・見直しも含めて再編集したものです。
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日本初サーチャーとしての経験と思い | vol.1 - サーチファンドとの出会い
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私がサーチファンドというものを知り、サーチ活動から、投資実行までを行ったのは2014年。2014年の末に、株式会社ヨギー(旧社名㈱ロハスインターナショナル)に投資をし、約4年ハンズオンで経営をリードした。
2024年現在、「サーチファンド」を冠する様々なプレイヤーが出てきているが、日本で初めてサーチファンドを設立しM&Aを実現したのは私だと言われている。
私がどのようにサーチファンドと出会い、資金調達をし、投資実現に至ったのか。またその後の経営における経験を、サーチファンドという仕組みについての考察と共に整理する。
【サーチファンドに出会うまで】
サーチファンドを始める前、そもそもの私のキャリアの礎はマッキンゼー(経営コンサル)とベインキャピタル(Private Equityファンド)。それぞれ4年弱、5年半在籍した。
ベインキャピタル退職後、当時まだ少なかった中小企業をターゲットとしたPE投資に可能性を感じ、新しい事業へのチャレンジにも理解のあるコンサルティング会社に在籍しながら、中小企業向けPEファンドの立ち上げを模索していた。コンサル業務と並行してファンド立ち上げの構想を練っていたものの、個人の名前で実績があったわけでもない私が、投資家から億~十億単位のお金を預かるPEファンドを立ち上げることは難しかった。
投資ファンドの立ち上げが思うように進まず悶々としていた頃、インターネットでたまたま出会った言葉が「Search Fund」。もう、何を調べていた時に見つけたかも思い出せないほど、本当に偶然だった。
聞いたことのない言葉で、カタカナで検索しても全くヒットしない。
英語の情報でさえ限られていたが、なんとか散らばった情報をつないで理解してみると、買収資金調達を後回しにできるPEファンドのような仕組みらしく、「中小企業向けのPE投資をやりたいが、まだ実績がなく資金集めに苦労している」自分にぴったりな仕組みだと感じた。
さらに、自分のように実績は浅いがM&Aと経営にチャレンジしたい人材は今後も増えるはず。この仕組みが浸透すれば社会的にも大きなインパクトにもつながる。という直観もあった。
当時の日本では、サーチファンドの実例はおろか情報すらほとんどゼロ。いまサーチファンドを立ち上げることで、自分が日本人で初めての事例になり、新しい概念を日本に浸透させる第一歩になる。との思いで、自らが日本初のサーチファンドを立ち上げようと一念発起したのが、サーチファンドとの出会いであった。
【サーチファンドという投資の仕組み】
最初に、サーチファンドとはどのような仕組みなのか、概要を解説しておこう。
サーチファンド(Search Fund)とは、個人版PE(Private Equity)ファンドと呼ばれることもある、いわゆるバイアウトファンドの一種。
通常PEファンドでは、投資家からまとまったM&A資金(通常、数十億円以上)を預かり、その資金で複数の企業を買収する。大きな資金を預かることになるので、PEファンドの設立には、投資家からの信頼、つまり実績が必要になる。そのためPEファンドを設立・運営するのは、業界で実績を積んだ人材であることがほとんどだ。
一方サーチファンドでは、M&A資金を集める前に、投資先企業を探すサーチ活動を先に行う。有望な企業が見つかったら投資家にプレゼンしM&A資金の出資を募る。サーチファンドの仕組みでM&Aを目指す人はサーチャーと呼ばれる。
無事M&Aが実現すると、サーチャーは自らが経営者として投資先の経営に邁進する。つまり、サーチャーは自らが経営者になることを前提に、企業価値の向上に貢献できる投資先を探すわけだ。
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サーチファンドがM&Aを実現するまでの具体的な流れをもう少し補足する。
投資対象として魅力的な企業を見つけるサーチ活動には時間がかかる。お金もかかる。したがって、サーチャーはまず投資家に「絶対によい投資先を見つけてきます。まずは、それまでの活動資金だけ、私に投資してください。M&A資金の出資は、投資先を見て判断してくれれば結構です」と、当面のサーチ資金だけ出資してもらう。
サーチ資金を先にファンディング(調達)して活動を始めるという仕組みが、サーチファンドという言葉の由来だ。
投資家からすると、実績もないし投資先も決まっていない個人に、いきなり多額の資金を預けるわけにはいかないが、少額のサーチ資金出資だけであればリスクは小さい。よい投資先が見つかったら、大きなチャンスになるかもしれない。もし、よい投資先が見つからなければ、M&A資金を出資しなければよい。サーチ資金を出資した分は損失になるかもしれないが、リスクは限定的だ。
優秀な人材が魅力的な投資先を見つけ、投資後に大きく成長させてくれるかもしれない。小さいリスクで、その可能性に賭けることができるのが、投資家の視点でのサーチファンド投資の魅力だ。
しかし、小さいとはいえサーチ資金の出資はリスクもある。サーチの結果、魅力的な投資先が見つからないかもしれない。そのようなリスクを取ることに対しては、見返りもあるべきだ。一般的には、サーチ資金出資に対する見返りとして、M&A資金の出資を優先的に検討できる権利(義務ではない)、M&A実現時にサーチ資金出資分が、高い評価額で投資先の株式に転換される等の優遇措置がある。
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サーチャーからすると、いきなりM&A資金を調達する信用力や実績が無くても、M&Aを目指したサーチ活動に一歩踏み出せる。もちろん、サーチ活動の結果、魅力的な投資先を見つけ、M&A資金を調達できるかどうかはサーチャー次第だ。成功が約束されているわけではない。だが、少なくともチャレンジする機会は得られる。
このi)サーチ資金の出資、ii)投資先が見つかった後のM&A資金の出資、という二段階の資金調達が、サーチャー・投資家双方にとってM&Aにチャレンジしやすい仕組みを実現する、サーチファンドのキモである。
【Entrepreneurship Through Acquisitionという概念】
サーチファンドは、Entrepreneurship Through Acquisitionという概念の一種として語られることもある。
一般的にアントレプレナーというと、ゼロからイチを立ち上げるスタートアップ起業が連想されると思うが、何もゼロイチだけがアントレプレナーではないよね、「既存の企業/事業の買収を通じて更なる成長を目指す」こともアントレプレナーの一種のかたちだよね、という考え方である。
よくサーチファンドのサーチャーと、PEファンドの招聘するプロ経営者と何が違うの?と聞かれることもあるが、アントレプレナーシップの文脈や、実際のサーチファンドのプロセスを見ると、似て非なることが分かると思う。
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▼日本初サーチャーとしての経験と思い