Stanford GSB 2024 Search Fund Studyの考察 - vol.1

 Stanford Graduate School of Businessが隔年で発行しているSearch Fund Study、2024年度版が公開されたので、概要を整理・考察しました。全2回に分けて公開します。

 米国でのサーチファンドの歴史は40年近く、様々な視点でのデータがまとめられています。なお、本レポートは原則として北米におけるいわゆるトラディショナル型のサーチファンドについての調査となっています。(トラディショナル型の説明はこちらをご参照ください)

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vol.1:サーチファンドマーケットの推移と投資の実態

【サーチファンドの数の推移】

 サーチファンドの設立数は増え続けています。直近2023年には米国で90本超のサーチファンドが設立されました。2010年代に入ってから拡大が続くサーチファンドはまだまだ伸びが続いているようです。

 一方、サーチファンドによるM&A投資件数は30~40件と、サーチファンドの設立数に比べると伸びが緩やかです。サーチファンドを設立しM&Aを目指して活動を始めたものの、M&Aを実現できずに活動終了する割合が増えている傾向にあるようです。

【サーチ資金調達】

 サーチファンド活動の第一歩は、サーチ資金の調達です。本レポートの調査対象であるトラディショナル型サーチファンドでは、一般的に10~15名の投資家からサーチ資金を調達し、2年間の期限内にM&Aを目指すのが一般的です。

 サーチ資金調達額は上昇傾向にあるようです。直近だと2年間のサーチ活動の資金として$550K($=140円換算で77百万円)を調達しています。

 出資を受ける投資家の数に大きな変化はありませんが、投資家あたりの出資額が増加しているように見えます。

【サーチファンドの設立後の成果】

 これまでに設立されたサーチファンドは累計681本。うち、サーチ中のもの、途中で方針転換をしたものを除く524本のサーチファンドがサーチ活動を終え何らかの結果がでています。活動を終えたサーチファンドのうち63%がM&Aを実現した一方で、37%はM&Aを実現できずに活動終了しています。

 サーチファンドの設立数が伸び始めた2013年以前と比較すると、近年M&A実現の確度は低くなっているようです。

 ちなみに、サーチ活動開始からM&A実現までの期間は1.5~2年程度というデータがあります。

 M&Aを実現したサーチファンドにおいては、約70%のケースでポジティブな投資リターンが実現されています。投資リターンがプラスの(エグジット済の)事例のうち約半数ではROI=5x以上、1割近い事例でROI=10x以上と、一般的なバイアウト投資と比較すると非常に高い水準のリターンを実現していると見受けられます。

 一方M&Aを実現したとしても30%程度の確率で損失がでているのも事実です。

 総合的にみるとリスク/リターンという観点では、サーチファンドは、バイアウトファンドとVCの中間に位置すると考えられます。

【投資時期別のリターンの変遷】

 40年の歴史の中でリターンの傾向に変化はあるのでしょうか。

 投資時期別に波はあるものの、過去から直近にいたるまで平均としては高い投資リターンが継続され、大きなトレンドとしてはリターンの様子に上昇/下降といった傾向は無いようです。平均的にはROIで4x程度、IRRで35%程度と、いずれも一般的なバイアウト投資と比較して高い水準です。

【平均保有期間】

 サーチファンドによるM&A後の平均保有期間は6~7年。(近年の投資はまだexitしていない企業が多く、今後のレポートでは保有年数がアップデートされると見込まれます)

 いわゆるバイアウトファンドの一般的な保有期間は3~5年程度ですので、サーチファンドによる保有期間は比較的長い傾向があるようです。サーチファンドに投資をする投資家の資金に、投資期限がない場合も多いのではないでしょうか。

【投資規模】

 M&A対象となった企業の平均的な規模としては、売上=約$7M(それぞれ$=140円換算で10億円)、EBITDA=約$2M(同3億円)です。過去から直近に至るまで大きな傾向の変化は見られません。

 買収価額は約$10~15M(同14~21億円) 。こちらはやや上昇傾向があるとも見えます。(ただ、企業価値ではなく買収価額の数字なので、収益規模に対するバリュエーションに変化があるのかの実態は見えません)

【投資先の業種】

 サービス業、ヘルスケア関連、テクノロジー関連、ソフトウェア業界が8割近くを占めています。

 ちなみに、米国サーチファンドの典型的な投資基準として、成長産業で、ストック型の売上があり、利益率が高い企業といわれています(そんな企業があれば誰でも投資したいですが)。

 この投資基準は、米国の(特に老舗の)サーチファンド投資家がM&A資金出資を判断する際の厳格な条件であると言われており、前述のM&A実現の確率が低くなっていることと、投資基準の厳格さとの関連が推測されます。

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【まとめ】

 2024度のレポートにおいて、北米におけるサーチファンドの設立数は拡大が続いていることが示唆されています。一方で、M&A実現に至る難易度は増しているようにも見受けられます。

 M&A対象企業の規模、業種等には、大きな変化がない印象でした。またM&Aが実現できた場合のリターンの高さも過去から近年に至るまで高い水準を継続していると見受けられます。

▼Stanford GSB 2024 Search Fund Studyの考察

vol.1:サーチファンドマーケットの推移と投資の実態

vol.2:サーチャーキャリアとしてのサーチファンド

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