Stanford GSB 2024 Search Fund Studyの考察 vol.2

 前回に引き続きStanfrod GSBが隔年で発行しているSearch Fund Study 2024年度版の整理と考察、後半です。今回は、サーチファンドにチャレンジするサーチャーの実態について考察します。

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vol.2:サーチャーキャリアとしてのサーチファンド

-サーチャーの年齢、性別、バックグラウンドなどー

【年齢、MBA】

 サーチャーの95%近くが40歳未満。80%が35歳未満です。また、サーチャーの80%がMBAを保有しています。

 米国ではビジネススクール卒業後、そのままサーチャーにチャレンジするのが一般的であり、ビジネススクールに通う年齢(一般的に30歳前後)との関連が高いと思われます。

 M&Aを通じて経営者を目指すサーチファンドという仕組みにおいて、30代前半という年齢は、若すぎるという感覚を持つ人もいるかもしれません。日本と米国のビジネス慣習の違いにより、サーチャーに適した年齢に違いがある可能性はあると思います。

 一方で日本において実際にサーチャー支援をしている経験からすると、30代という年齢は、必ずしもM&Aと経営におけるハードルにはならないとも考えています。

【性別】

 かつてはサーチャーのほぼ100%が男性でしたが、近年は女性サーチャーも増え直近の統計では17%のサーチャーが女性です。

 こちらも年齢と同じく、女性が中小企業の社長になるハードルが高いのではないかという考察をされがちですが、当社の経験からは、これまでにお会いした企業オーナーを想像すると、女性サーチャーだからという理由でM&Aや経営に支障をきたすと思われるケースは少なく、ジェンダーに関わらずサーチファンドにチャレンジすることは十分に可能だと考えています。

【バックグラウンド】

 全体の50%程度が、コンサル・PE等のいわゆるプロフェッショナルファーム出身です。他には、事業会社の管理職や営業出身の方も、20~30%程度を占めます。そのほか、アントレプレナーや(グラフには表現していませんが)弁護士、会計士、エンジニア、軍、などの出身者もいます。

 M&A~投資後の経営まで、基本的にサーチャー自身が主導するサーチファンドにおいて、体系的に経営の全体像を把握できるプロファーム経験者が活動しやすいと言えるでしょう。

 一方で、投資後の経営においては必ずしもプロファームの経験が有利という訳ではないと思います。泥臭い現場の人間関係など、事業会社の経験もサーチファンドにおける強みになると考えています。

【複数人でのサーチャーチーム】

 複数名(主に二人)でチームを組んでサーチファンドを始めるケースもあります。近年では20~30%のサーチファンドではチームを組んで活動しているようです。

 統計としてはチームで取り組むサーチャーの方が、単独サーチャーより投資の成果が良いようです。強みを補完しあえること、また精神面で支えあえるパートナーがいることのメリットがあるということでしょう。

 一方で個別の事例としては、活動途中で方針に乖離が生じ、好ましくないかたちでチーム解消に至る事例もあるようです。ツートップの経営はうまくいかないという一般論も踏まえると、投資家の観点ではチームサーチャーへの投資判断は難しい側面もあると感じています。

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-サーチャーの報酬-

【サーチ期間の報酬】

 2022-23年にサーチ活動を始めたサーチャーのサーチ期間の報酬の中央値は、$139K($=140円換算で約2,000万円)/年。インフレの影響で高騰しているとのことです。サーチ期間の活動内容や、アントレプレナーとしてのリスクテイクの在り方を考えると、相当に高い報酬水準だという印象です。

【M&A後のCEO報酬】

 M&A後の平均的なCEO報酬は、約$200K($=140円換算で2,800万円)/年。この水準は、投資先の規模や収益性によって幅があるとのこと。特に投資後の期間が長くなるにつれ、投資先の状況による変動幅が大きくなるようです。

 サーチファンドに限らず日米のCEO報酬の相場に差があるので、日本の中小企業で同じ水準の報酬を期待するのは難しい印象はあります。

【株式報酬(成功報酬)】

 サーチャーはM&A後の経営の成果に応じて、最大25%の株式報酬を得るのが一般的です。50%の事例で$2M($=140円換算で2.8億円)以上、30%の事例で$6M(同8億円)以上の株式報酬を得ているという結果です。主に30代前半の人材が数億円の報酬を目指せるスキームは魅力的だと思います。

 一方で、株式報酬はあくまで成果に応じたものですので、サーチ活動の結果M&Aが実現できないリスク、経営に失敗して株価が棄損するリスク等は存在します。サーチャーはあくまでアントレプレナーであり、高いリターンのチャンスもある一方で、リスクのあるキャリアでもあります。

 税制その他の事情により、国によって事情は異なりますが、当社も米国の事例を参考に成功報酬を設計しています。

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【まとめ】

 30代、プロフェッショナルファーム経験者、MBA保有という典型的なサーチャーの属性に変化はないものの、年齢やバックグラウンドに多様性はあり、特に女性サーチャーは増加傾向にあるようです。

 サーチャーの報酬、特に大きなウェイトを占める株式報酬は数億円以上と高い水準が実現されています。M&A後の役員報酬も(もともと日本と比較すると高い水準ですが)拡大傾向にあり、これは近年の米国のインフレの影響があると考えられます。

▼Stanford GSB 2024 Search Fund Studyの考察

vol.1:サーチファンドマーケットの推移と投資の実態

vol.2:サーチャーキャリアとしてのサーチファンド

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