経営者を目指す優秀な人材にとって、サーチファンドというキャリアが他の選択肢と比較してどんなメリット/デメリットがあるのか気になるところかと思います。一般的に比較されやすい類似のキャリアとの違いや特徴を整理していきたいと思います。
今回は典型的なサーチャー希望者にとって、「経営者ポジション」として比較の俎上に乗りやすい下記の3つを例に挙げ、期待年収、採用条件、リスクなど様々な気になる視点で違いを整理していきましょう。
比較①:対象企業の規模
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サーチファンドの投資先の規模としては、売上約5~10億円、EBITDA1~2億円の企業がアメリカの典型的な事例です。
日本では未だ事例が少ないものの、当社サーチファンド・ジャパンでは、アメリカと同様の売上規模の企業への投資を目安としています。投資家によってはもう少し小さい企業を対象としているケースもあるようです。
企業の規模によって経営者に求められる役割は当然異なります。例えばEBITDA5千万円の企業にとって、年収1千万円の人材を雇用する、500万円のマーケ施策を実施することが収益性に大きな影響を与えることは想像に難くないでしょう。実際には数十万円のコストや売上を大事にしながら経営を行っていくことになります。
このような規模の会社のCEOの役割は、部下に指示を出す、戦略的な方向性を示すだけでなく、自ら泥臭く手を動かすことが求められます。
一方でアップサイドが非常に大きいとも言えます。100億円の会社を200億円に成長させるのは簡単ではないですが、5億円の会社は、歯車がかみ合えば数倍~数十倍に成長する可能性は十分にあります。一つの小さな施策が成功した時の影響が非常に大きいことは、サーチファンドの醍醐味といえるでしょう。
比較②:報酬/インセンティブ
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サーチファンドの投資先経営者としての報酬は、年収1,000~1,500万円/年、ストックオプション/株式報酬は最大で25%が典型的な水準です。
固定報酬としての年収はPE投資先CEOよりはやや低め、ベンチャー創業CEOよりは高めといえるでしょう。一方、ストックオプション/株式報酬の%はPE投資先より非常に大きい水準です。対象会社の規模はPEファンド投資先CEOより小さくなりがちですが、大きなストックオプションによりPE投資先CEOにも見劣りしないインセンティブになるよう設計されています。
アメリカのケースでは、固定/ストックオプションを合わせたトータルでは10億円近い報酬を得られているという統計もあります。
PE投資先CEO、またベンチャー創業CEOとの比較では、ミドルリスク/ミドルリターンの報酬設計といえるでしょう。
比較③:投資家から求められる期待値
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一般的にサーチファンド投資で投資家から期待されるリターンは、PEファンドと同様のIRR=20%が一般的です。ちなみにアメリカのサーチファンドの実績としては、平均でIRR30%以上のリターンが達成されています。
IRR20%(5年で2.5倍の株式価値の実現に相当)を求められる、というと5年間で利益を2.5倍にする必要があると思われる方もいらっしゃいますが、必ずしもそうではありません。例えば一定のキャッシュフローがある企業であれば、仮に5年間で利益が全く変化しなくても積みあがったキャッシュの分、株式価値は増大します。
実際には様々な変数が絡みますが、5年間でEBITDA1.5倍程度が達成できれば、IRR20%/株式価値2.5倍は十分に達成できるケースが多いです。
【参考:先述の報酬水準との関連】
サーチファンドによるM&Aで5億円の投資を行い5年間の経営でIRR20%を達成すると、5年後の株式価値は12.5億円、キャピタルゲインは7.5億円となります。仮にサーチャーのストックオプション20%の場合、7.5億円x20%=1.5億円の価値となるイメージになります。これをベースケースとし、さらにアップサイドを狙っていきましょうという投資ストーリーを描くことになります。
さらにストックオプションは設計次第で、給与所得と比較し大きな税務メリットがとれます。上記の1.5億円のストックオプション報酬の場合、税率20%の設計で手取り1.2億円になりますが、同じ1.5億円を給与所得で得た場合は税率55%(最高税率)で手取り0.7億円弱と、倍近い差になります。
比較④:採用条件/チャレンジしやすさ
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サーチファンドは、経営経験のないビジネスマンがM&Aにより既存企業の経営者になる仕組みです。M&Aのノウハウ、外様社長として組織のトップになる難しさなど、サーチファンドならではのハードルもありますが、相性の良い投資家やアドバイザーからのサポートを得られれば、比較的経験の浅い人材でも経営者として活躍できる道といえるでしょう。
アメリカではMBAを卒業したての30代のビジネスマンがサーチファンドにチャレンジするのが一般的ですが、日本ではサーチファンド投資家によって、サーチャーに求める条件は様々です。当社サーチファンド・ジャパンでは、MBAや年齢等の制限は設けていません。現時点では20代~40代後半、学歴も職歴も様々なサーチャーが活動しています。
比較⑤:特有のリスク/難しさ
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どのキャリアを選んでも、経営に失敗するリスク、自己投資を行う場合の経済的な損失リスク、貴重なキャリアの数年間を費やすリスク等は、共通するリスクといえます。
サーチファンドに特徴的なリスクとして典型的なものは、サーチ活動の結果投資先が見つからないリスクでしょう。逆説的ですが、このリスクを避けようとするあまり、心からコミットできない企業に投資をしてしまうこともリスクといえます。拙速で焦りの混じった投資判断は、投資後の経営に向き合うマインドも含めて、成果に影響します。
サーチファンドに特有のこのリスクは、中小企業M&Aの経験がないとイメージがしにくいと思われます。サーチファンド活動を開始する前に、できるだけ中小企業M&Aや中小企業経営のイメージを具体的にすることをお勧めします。
またサーチファンド投資家によって支援体制は様々です。ご自身の経験を振り返り、足りない部分をサポートしてくれる投資家と組むことによって、リスクを最小限に抑えることも可能です。
比較⑥:その先のキャリア
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どのような形でも一定規模の企業の経営を経験した人材は、その後のキャリアの選択肢が大きく広がると考えられます。実績/トラックレコードができることに加え、組織のトップを経験することはリーダーとしての器やメンタリティに大きくプラスになるでしょう。外部(採用する側)から見ても、経営を一度経験した人への安心感は大きいと言えます。
サーチファンドでは投資後5年程度は投資先の経営に専念するのが基本ですが、その先は様々な可能性があります。投資先の経営を続けるもよし、プロ経営者として別の企業の経営にチャレンジするもよし。
また日本において黎明期であるサーチファンド業界に特有のチャンスとしては、産業を創れる第一世代になれる可能性でしょう。90年代にIT産業に飛び込んだ人材が業界のトップで活躍しているように、今サーチファンドに飛び込む人は10年後に業界を引っ張る第一人者となっている可能性が高いと考えています。
実際にアメリカのサーチファンド業界では、元サーチャーとして活躍した人が投資家として次世代のサーチャーに投資をするというエコシステムにより発展してきました。アントレプレナーにはリスクはつきものですが、それに見合う可能性も大きな魅力的なキャリアだと考えています。
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