日本初サーチャーとしての経験と思い | vol.3 - ソーシング~経営~エグジット

本コラムは、2019年に当社代表伊藤公健が個人のnoteで掲載した経験談を元に、開示情報の追加・見直しも含めて再編集したものです。

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日本初サーチャーとしての経験と思い | vol.3 - ソーシング~経営~エグジット

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【投資先企業探し(ソーシング)】

 サーチ資金支援を得てサーチファンドを設立できたが、あくまでスタートラインに立っただけで、ここからが本番だ。(本当のスタートラインは、投資が実現し経営をスタートする時だが)

 ここから投資先を探す活動、いわゆるソーシングが始まる。ソーシングのプロセスは、どのPEファンドでも苦労しているプロセスである。証券会社や銀行からの紹介、経済界に顔の利くアドバイザーから紹介、オークションへの参加、候補先企業に直接提案を持っていくダイレクト営業・・・など、各PEファンドがいろいろなアプローチをとっているが、未だにこのやり方が正解というものはないと思う。

 今(2024年)でこそ、中小企業を対象とするPEの世界では、M&A仲介会社経由で多くの投資案件情報が得られるし、サーチファンドと冠して活動するサーチャーも多くの情報にアクセスできているようだが、それでも投資に値する魅力的な企業を見つけるのは非常に難しい。

 いわんや私が活動した2014年には、M&A仲介会社に問い合わせても返信すらもらえないこともあるくらい、中小企業M&Aのマーケットも未成熟であったし、サーチファンドという仕組みにも信用力が無かった。

 そんな中で私のソーシングの手法は、銀行、税理士、知人やアドバイザー、M&A仲介などに、地道に営業活動を行い、自分を売り込み、投資候補企業の紹介をお願いするというものだった。奇をてらった活動はしていないし、魔法のような解決策もなかった。

 コンタクトさせていただいた各社/各人経由で投資可能性のある企業を紹介     いただき、最終的に投資を実現するまでに、検討させていただいた企業数は約10社であった。

 投資検討した企業の数が約10社というのは、一般的なサーチファンドのソーシングの例と比較すると異常に少ないと思う。私の場合は、たまたま早いタイミングで良いご縁に恵まれたが、米国の一般的なサーチファンドでは数百社(その前の、初期的な情報入手数は数千社)を超える企業を検討するといわれている。

 非常に少ない事例からの印象ではあるが、具体的な投資検討に至った案件の多くは、知人など関係の深い先から紹介してもらった情報であった。私の仕事のやり方、強み/弱み、性格などを理解してくれている方ほど、客観的な意味でも相性という意味でも良い案件を紹介していただいたと思う。

 ちなみに「サーチ」「案件探し」という表現は誤解を生みやすいと思っている。

 自分の関心が高い領域で、成長余地/収益性が高く、差別化された技術があり、オーナーは妥当な価格で売却の意向があり、さらに自分を譲渡先として選んでくれる、などといった理想の案件はまずない。

 青い鳥を探すだけでなく、自分ならではの成長戦略を考える、オーナーにとって魅力的な投資スキームや条件をクリエイティブに考える、信頼を得るためのコミュニケーションを工夫する、といった自ら「案件を創る」という意識がないと、なかなか投資実行まで至るのは難しい。

 「誰がみても良い投資先を探す」のではなく、「一見普通に見える会社だが、自分が関わることで魅力的な投資案件にする」という意識が、サーチファンド(もしくはPE投資全般)に必要であり、投資に関わる者の付加価値だと思う。

【ターゲット業界の選び方】

 「○○業界をターゲットに考えているんですけど、どう思います?」

 「なぜ伊藤さんはその会社を選んだんですか?」

 

 ターゲット業界や会社の選び方についても、よく質問を受ける。

 私は、経営コンサル・PEファンドというキャリアで、いわゆるジェネラリストタイプの人間だったこともあり、特定の業界に専門性やこだわりがあったわけではない。従って、特に業界は絞らずにソーシングを行っていた。投資後には自らが経営をリードするので、心情的に受け入れられないビジネス(※ 完全に個人の好みの話)はNGとしていたが、B2BでもB2Cでも、成長産業でも成熟産業でも、戦略的なこだわりは特になし。

 強いて言えば、ビジネスモデルがシンプルなこと、という条件は無意識に持っていた。「バイオテクノロジーのこの部分がキモ」といわれても、私はちゃんと理解もできないし、貢献もできない。

 と、私の場合は業界を絞らなかったが、ターゲットの絞り方はなかなか悩ましい問題だとは思う。ジェネラリストよりスペシャリストタイプの方が、ターゲットが分かりやすく、投資候補先のオーナーにアピールするフックにもなりやすい。一方で、投資~経営までの全プロセスで見るとバランス型の能力も必要であり、ジェネラリストの強みもある。

 ソーシングという段階に限ると、何かしらのフックはあった方がオーナーにもアピールしやすいし、紹介者にとっても「なんでもいいです」というよりは「これができます」というポイントがあった方が紹介しやすいので、なんらかの専門性/強みは言語化してターゲットを明確にする方がよいと思う。

 また、投資後はハンズオンで多くの時間と労力を割き、つらい時にも逃げずにやり抜く責任があるので、熱意のある分野やテーマを曖昧にせずに明確に意識した方が、あとあと後悔がないと思う。

 ソーシング活動中は、焦り、迷い、自分の意思も迷走すると思う。会社を承継し、オーナー経営者としての責任を背負うことの重みを想像し、「それは本当にやりたいことですか?」という問いを忘れないようにすることは非常に重要だと思う。

-ソーシングで感じた信頼の大切さ-

 徹夜したからといって新しい案件が出てくるわけでもないのが、ソーシングの難しさの一つだと思う。一方で、ただ紹介を待っていてもしょうがない。

 縁や運といった要素は小さくないが、それを引き寄せるには、月並みではあるが、日々の仕事を誠実に行ない、成果を出し、信頼を得ておくことは大切だと思う。

 私の一連のサーチファンド活動における様々なご縁は、過去お仕事をした人からの紹介や支援によるものが少なくない。かつてご一緒した方々には、できる限り誠実に向き合ってきたつもりではあったので、少しは信頼貯金ができていたのかなと、振り返ってみて思うこともある。

【谷家さんとの出会い】

 さて、サーチファンド活動を始めた2014年、谷家衛氏に相談させていただく機会があった。

 谷家さんは、投資家として著名なだけでなく様々な社会活動の仕掛人としても活躍している。彼が手掛けた有名な活動としては、ライフネット生命、お金のデザイン(ロボアドバイザー THEO)、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)、HumanRightsWatch、CampFireなど多岐にわたる。

 以前から谷家さんと面識はあり、折に触れて情報交換や考えているチャレンジについて相談する機会を頂いていた。一緒に仕事をする機会はなかったが、毎回丁寧なアドバイスを頂いたり、逆に谷家さんの考えているチャレンジのご提案を頂いたりしていた。

 そんな関係が続いていた谷家さんに、サーチファンド活動の全般的な相談に伺ったところ、サーチファンドのコンセプトへの応援とともに、彼がオーナーであった株式会社ヨギー(旧 株式会社ロハスインターナショナル)を、投資先候補として提案していただいた。

【ヨギーについて】

 ヨギーは2004年の創業に近いときから、谷家さんがオーナーとして支援している企業の一つである。東洋的な価値観が見直される時代が来る、とヨガに可能性を感じ、まだ日本で浸透していなかったヨガスタジオを展開するヨギーの成長を全面的に支援されてきた。

 その後、ヨギーはヨガ業界では大手の一角にまで成長し、クオリティの面でも評判の高いブランドを築き上げてきた。一方で当然課題もあったわけだが、様々な事情があり、一朝一夕に解決できることばかりではない。

 そのようなタイミングで、サーチファンドのコンセプトを説明したところ、「伊藤君のファンドでヨギーを支援してくれるなら、やってみる?」と、お互いのニーズがマッチするご提案をいただいたのだ。

 また谷家さんには、ファンドの投資家側の観点でも多大なご協力を頂いた。他の関係者との接点づくりや条件の調整、また投資家としての出資など全面的なサポートを頂いた。

【デューディリジェンスと投資実行】

 さてヨギーへの投資を提案されたとはいえ、デューディリジェンス(DD)をしないと投資判断はできない。

 ビジネス、会計、法務などそれぞれの面で検討したが、この規模の投資だとDD費用も潤沢に出せるわけではない。したがって、どうしても怖いポイントに絞ってリスクの有無を確認した。またビジネス面では私が貢献できる余地があるかどうかを自ら検討し、イメージを具体化していった。このあたりの見極めについてはPEファンドでの経験が役に立ったかもしれない。結果論だが、検討したポイントはおおむね的を射ていたと思う。

 DDの結果を踏まえ、関係者との間での条件等の調整も完了し、無事ファンドによる投資が2014年末に実現する。サーチファンド活動を開始してから、9カ月くらい経っていたと記憶している。

投資先オフィスからの風景

【投資後の経営】

 すみません。。ヨギー投資後の具体的な話を公開するのは控えさせていただきます。

 達成した成果を美談として語ることもできるし、うまくいかなかった話をHARD THINGSとして語ることもできる。ただ、良い話であっても苦労した話であっても、会社を特定できる形で内情、特に書く意味のあるほどの深い話を公開することは、必ずしも社員や関係者のためにならないと思う。私の視点での解釈で不快に思う人もいるかもしれない。

 どんな企業においても、外野から見える以上に中の人はいろいろな思いや事情を抱えて日々の事業を営んでいる。それを退任した元トップが、誤解を招きやすいweb上で一方的に内情を公開するのは控えさせていただく。

 気になる人は、よくある中小企業の苦労話、成功例を想像してもらえればよい。当たらずとも遠からずだと思う。

【エグジット】

 もともと、ヨギーへの投資は長期投資だと考えていた。短期的に数字だけ整えてエグジット(売却)するつもりはなく、長期的なポテンシャルのある会社だし、そこを目指すつもりであると関係者にも説明していた。しかし、しばらくして結果が数字に表れはじめるとエグジットの話が内外から出始める。

 詳細は控えるが、関係者の意向、自らのこれまで/これからの役割、会社の将来等を鑑み、資本的にも、また経営者としても順次エグジットするという判断をし、一旦サーチファンドとしては活動が終了することになる。私が役員だった期間は2015年頭から約4年であった。

 

 自分の成果について客観的な評価は難しいし、完璧だったとはとても言えないが、投資先と支援してくれた関係者のために誠実に向き合ってきたこと、日本におけるサーチファンドという仕組みの第一歩として意味のある結果が残せたことは間違いないと自負している。

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 いろいろと偉そうに書いてきたが、私自身たまたまPE投資を長年経験していたことで、サーチファンドの一連のプロセスへの土地勘はあったが、至らないところや苦手なところが多くある。

 日本で初めてサーチファンドを設立しM&Aと経営まで実現はできたが、タイミングや運、またご縁による部分が大きく、完ぺきに成し遂げられたとは全く思わない。もっとうまくできる人は大勢いると思う。

 アントレプレナーシップのある人であれば、サーチファンドの一連のプロセスの中で未経験な部分があっても、サーチャーとして活躍できる人は多いと考えている。

 私の経験談が、「M&Aを通じたアントレプレナー」という新しい道が日本に浸透するきっかけになり、サーチファンドという仕組みの健全な発展に、少しでも役に立てれば幸いです。

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▼日本初サーチャーとしての経験と思い

vol.1 サーチファンドとの出会い

vol.2 サーチファンドの設立

vol.3 ソーシング~経営~エグジット

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