サーチファンド・ジャパン
インタビュー

Interviews
Kimitake ITO

 Interview #

9

2024

 年

12

 月

伊藤公健

Kimitake ITO

サーチファンド・ジャパン

代表取締役

Vol.2 | サーチファンド・ジャパンの歩みと未来

-サーチファンド・ジャパンは、2024年10月に設立4年を迎えました。設立からこれまでの歩みや今後の展望についてお伺いしたいと考えています。

-まずは現在のファンドの規模と支援サーチャーの状況について教えてください。

 2023年3月に2号ファンドを立ち上げ、2023年11月には東京都から出資を受けTokyo Search Fundを立ち上げました。現在は1号ファンドから合わせて約50億円を運用しています。これまでの投資実績としては、6名のサーチャーによるM&A/事業承継が実現(※追加投資も含め7件)、つまり6名の社長が誕生しております。足元サーチ活動中のサーチャーも多数ご支援させていただいております。

-ありがとうございます。設立当時、サーチファンドを普及させるためのハードルとして感じられていた点と、それに対する足元の状況については、いかがでしょうか。

 まずサーチャーの応募に関して、設立当時は、サーチファンドという仕組み自体がまだ馴染みが薄かった中で、このモデルに共感し、挑戦したいと思う人材が集まるかどうかを懸念していました。しかし、予想に反し非常に多くの応募があり、「新しいアントレプレナーシップの形」として経営者を目指したいという世のニーズを感じました。

 次にM&A/事業承継投資検討については、個人が主役のM&A/事業承継というコンセプトがオーナー様にどう映るのか未知数ではありました。実際には、サーチャーが前面に立ちオーナー様に向き合う中で、「普通のファンドでは結局後継者の顔が見えなくて不安だった」、「こんな立派な人がうちの会社を引き継いでくれるのであればうれしい」という声を聞くことが多く、オーナー様にとってもサーチファンドが提供できる価値は大きいと感じるようになりました。

 また、設立時より株主メンバーには多大なるご支援を頂き感謝しています。各社に期待していた機能はもとより、参画してくださったメンバーの熱意や自発性に助けられており、この4年間を振り返ってみても改めて理想的なパートナーであったと感じています。

-設立当時思い描かれていたアクセラレーター型のサーチファンド投資家としての価値提供の在り方について、この4年間を振り返ってみていかがでしょうか。

 多くのサーチャーにとって未経験の領域であるM&A領域のプロセス支援に加え、私自身が行ったサーチファンドで経験の共有や、投資事例の共有、日々の経営課題の壁打ちといった様々な関わり方をする中で、当時想定していたアクセラレーター型のサーチファンド投資家としての価値提供はできていると考えています。

 一方で、我々はあくまで投資家であり、一連のプロセスの主役であるサーチャー自身がオーナーシップをもって投資/経営のプロセスと意思決定を主導していくことは常に意識しています。アクセラレーター型の投資家としてハンズオンで支援していくスタイルであるからといって、投資家である我々が意思決定を主導することはないですし、サーチャーのオーナーシップを害するような支援はしないように心がけております。

-サーチャー自身のオーナーシップを求めつつも、投資家としてのリターンも追求していく中で、どこまでハンズオンで支援するかというジレンマもあるように思います。伊藤さんが考える理想的な「サーチャー像」とはどのようなものでしょうか?

 サーチファンドが、「個人が投資家の支援を受けながら企業のM&A/事業承継を主導し、自ら承継先の経営に携わる」仕組みである以上、サーチャーはそのプロセスを遂行できる人と捉えており、このプロセスにオーナーシップをもってマイプロジェクトとしてやり切れる人、が理想のサーチャー像だと考えています。

 もうひとつ、サーチファンド特有の観点からお話しすると、一般的にアントレプレナーというと、ゼロからイチを立ち上げるスタートアップ起業家が連想されるところですが、「既存の企業/事業の承継をして更なる成長を目指す」ことも、アントレプレナーシップの発揮の仕方の一つであると考えていて、サーチファンドは後者を体現する仕組みです。サーチファンドの仕組みは、単なる経営者交代にとどまらず、社員や取引先等の多くのステークホルダーを巻き込むプロセスであるため、基本的なビジネススキルに加え、「既存の組織や利害関係者への影響を想像しながら事業を遂行する力」はサーチャーに必要なスキルであると考えています。

-サーチファンドの認知が高まってきた今日、トラディショナル型(詳細はこちら)のサーチファンドの設立事例も増えてきたように感じますが、トラディショナル型のサーチャーへの印象について教えてください。

 トラディショナル型のサーチャーは、ゼロベースから資金調達に取り組み、後ろ盾のない中でオーナーシップを持って挑戦する意思を感じ、まさにアントレプレナーシップを体現している印象を持っています。想定外の事象があっても自分自身で乗り越えられるであろう強さに、たくましさを感じる一方で、ある意味自分自身の意思のみで投資や経営上の道筋が決まるので、慎重さや周囲への配慮も忘れずに、投資と経営に携わってほしいと思います。

 一方で、アクセラレーター型のサーチファンドは、「最短距離で中小企業の経営者になりたい」「適度な壁打ちを受けながら活動したい」と考える方に向いていると思っています。我々投資家のサポートを受けながら経営に集中できることは、アクセラレーター型のメリットの1つであると考えています。

 今後サーチファンドマーケットが拡大していく中で、両スキームがそれぞれ発展し、サーチャー自身が各スキームのメリットとデメリットを理解し、ご自身の価値観とマッチしたスキームを選択していくことが大切であると考えています。

-次に視野を広げて、マーケット全体についてお伺いできればと思います。設立後4年を経て、サーチファンドマーケットはどのように変わってきたのでしょうか?

 サーチファンドに対する認知度は着実に高まっており、プレイヤーも徐々に増え、黎明期から発展期に移ってきたなと感じています。

 当社設立当時は、事業承継や地方での人手不足といった問題を解決する手段としてサーチファンドが認知され始め、主に地方銀行が主導した事例が出てきていた印象がありました。

 その後、事例が蓄積されていく中で、事例の認知やMBAスクールでの講義を通じ、Entrepreneurship Through Acquisition(既存の企業/事業の買収を通じて更なる成長を目指す)の概念の一種としてもサーチファンドの仕組みが徐々に認知され始め、一個人が経営者となりうる新しいキャリアとして広がりを見せている印象です。

-では、サーチファンドマーケットの今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか?

 サーチファンドという仕組みはまだまだ成功実績が少ない中で、投資家をはじめとして、適切なリターンが出せるのか、仕組みとしてワークするのかといった点に対して、まだまだ懐疑的な印象を抱かれていると考えており、今後は実績や実力が問われていくフェーズであると考えています。我々も含めて、投資家がサーチャーの成功に対して真摯に向き合い、規律を持って投資判断していくことが、今後のサーチファンドマーケットの拡大に向けて重要な要素であると感じています。身が引き締まる思いです。

-最後にサーチファンド・ジャパンとしての今後の展望について教えてください。

 まずは、サーチファンドを日本に定着させるためにも、アクセラレーター型のサーチファンド投資家として、目の前のサーチャーの成功に真摯に向き合い、投資一件一件に丁寧に取り組むことで、ファンドとしての実績を追及して行きたいと考えています。

 加えて、サーチファンドの最大の特徴は「個人がM&Aを通じて経営者となる」ことにあると考えており、この特徴を軸に据えつつ、投資の幅を広げていくこと、そのために思考を止めないことを大切にしています。現在の投資対象は、従来のPEファンドと同様、いわゆるバイアウト投資に注力していますが、現在の投資を唯一の解とせず、ベンチャー投資や再生投資、またマイノリティ投資や長期目線での自己勘定投資などの可能性も模索していきたいと考えています。

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▼伊藤公健(サーチファンド・ジャパン 代表取締役) インタビュー

vol.1 | 日本におけるサーチファンド業界の先駆者

vol.2 | サーチファンド・ジャパンの歩みと未来

インタビュー一覧

#

9

伊藤公健

サーチファンド・ジャパン

代表取締役

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8

ポスト商社としてのサーチャーキャリア

大富涼(元三菱商事) x 三輪勇太郎(元三井物産)

x

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7

小林和成

MCPアセット・マネジメント

マネージング・ディレクター

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6

松木大

DBJ (日本政策投資銀行)

企業投資第3部長

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5

三輪勇太郎

サーチファンド・ジャパン

サーチャー

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4

荒井裕之

キャリアインキュベーション

代表取締役社長

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3

大富涼

アレスカンパニー

代表取締役社長(元サーチャー)

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2

新實良太

サーチファンド・ジャパン

シニアマネージャー

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1

神戸紗織

サーチファンド・ジャパン

シニアマネージャー

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