Interview #
9
2024
年
12
月
伊藤公健
Kimitake ITO
サーチファンド・ジャパン
代表取締役
ー日本で初めてサーチファンドが誕生してから約10年が経過し、サーチファンドマーケットは黎明期から発展期に差し掛かろうとしています。今回は、日本初のサーチファンド活動を通じ、M&A及び企業価値向上を実現したのち、サーチファンド投資会社である株式会社サーチファンド・ジャパンを設立したサーチファンド・ジャパン代表取締役の伊藤のインタビューをお届けします。サーチファンド・ジャパンが設立されて4年がたち、これまでの振り返りと今後のサーチファンドマーケットに対する展望までお話を伺います。
-まずはこれまでのキャリアについて教えてください。
新卒でコンサルティングファームのマッキンゼーに入社した後、ラージキャップのPEファンドであるベインキャピタルに転職しました。当時はベインキャピタルが日本オフィスを開設して間もない時期だったこともあり、少人数の投資チームの組織の中でPE投資の経験を積むことができました。
その後、より手触り感のある中小企業支援に携わりたいと考え、方法を模索していた中で、サーチファンドという仕組みに出会いました。当時日本では事例はなかった中で、試行錯誤しつつチャレンジした結果、サーチファンドを設立し、とある中小企業のM&Aと経営を実現することができました。
この経験を踏まえ、サーチファンドの仕組みを日本に広めたいと思い、サーチファンドに投資する投資会社、サーチファンド・ジャパン(以下、「SFJ」)を立ち上げ、今に至ります。
-サーチファンドという仕組みに対して、当時感じていた魅力を教えてください。
サーチファンドは、経営者を目指す個人(以下、「サーチャー」)が投資家の支援を受けながら企業のM&A/事業承継を主導して、自ら経営に携わる投資の仕組みです。
サーチファンドは、当時の私のように個人としてまだ実績のない人間が、M&Aと経営にチャレンジできる仕組みであり、M&Aを通じて経営者になるという「新しいアントレプレナーシップの形」という意味でも非常に大きな可能性を感じました。
また、一般的な投資家からすると、相対的に小規模な投資は、手間がかかる割にリターンが小さいため、取り組みにくいと言われており、当時は中小企業向けのPEファンドがあまりなかったと記憶しています。そこで、サーチファンドの仕組みで、個人が中小企業を対象とした投資ができるようになれば、PE投資のすそ野が広がる可能性があるとも感じ、その点も魅力に感じていました。
-当時の日本でサーチファンドの事例がなかった理由はどうお考えでしょうか?
サーチファンドは個人版PE投資ともいわれており、PE投資としてのノウハウも、成功に近づけるために重要な部分を占めるのですが、当時の日本ではPE業界そのものの歴史が浅く、この分野に精通した人材が限られていたことは一つの要因であると推察しています。
また、そもそもサーチファンドという概念自体の認知度がほとんどゼロに近かったですね。サーチファンドを知っている投資家が国内にほとんどいなかったため、投資家を説得し、出資を取り付けるハードルが高かったことも事例がなかった背景の一つだと思います。
-ご自身が日本初のサーチファンド設立者として、まさに「新しいアントレプレナーシップの形」を体現されていったかと思いますが、当時を振り返ってみてどのような苦労がありましたか?
詳細のプロセスについては、前回掲載したコラム(詳細はこちら)に譲ろうと思いますが、日本に存在しなかった仕組みで出資を募ることや、承継候補となる企業を探すことは苦労しました。実績も信用もない個人の活動となるので、投資家の皆様にも相手にされませんし、当時も存在していたM&A仲介会社に問い合わせても返事が来ないことがザラにありました。
-そのような経験を経て、サーチファンドという仕組みを世の中へ広めたいと考えSFJを設立されます。サーチファンドを世の中に広めたいと考えた理由は何だったのでしょうか?
資金調達からソーシング(案件探索)、エグゼキューション(投資実行)、そして経営といった一連のプロセスを経て、自身でオーナーシップを持って意思決定していくことの重みや責任を感じる一方で、大きなやりがいと、雇われではなくマイプロジェクトとして推進できる面白さを感じていました。
日本においては、経営者を目指すキャリアパスとして、組織の中で時間をかけて出世するか、ゼロイチで起業するかの2択が主な選択肢ですが、サーチファンドの仕組みであれば、ゼロイチを生み出す起業家タイプではないけれども、既存事業を成長させる能力に長けた優秀な人材が経営者/アントレプレナーとして活躍する道も広がると思ったことが大きな理由です。私自身もサーチファンドを経なければ生まれなかったマインドセットを身につけられたように感じております。
-その後、サーチファンドに対し資金出資及び伴走支援を行う投資会社であるSFJを設立されることとなりますが、改めて設立の経緯について教えてください。
自らがサーチャーとして活動し経営に携わる中で、世間でのサーチファンドの認知も徐々に広がり「新規承継のご提案」や「話を聞きたい」という声をいただく機会が増えてきていると感じていました。
そのような関心の高まりを感じる中で、サーチファンド設立/サーチャー経験者としても、サーチファンドの仕組みを世に広め、サーチャーというキャリアを日本に確立させたいという思いが強くなり、「優秀な人材が中小企業を承継し再成長させる、新しいアントレプレナーシップのかたちを日本に定着させる」ことをミッションとして掲げ、SFJを設立しました。
-ご自身の経験から新しいキャリアの可能性を感じられて設立に至ったのですね。次に、SFJは、グローバルで主流の、個人が「複数の」投資家から資金調達を行うトラディショナル型のモデルではなく、個人が「単一の」投資家から資金調達を行いハンズオンの支援を受ける、いわゆるアクセラレーター型のモデルでのサーチファンド投資を採用しています(詳細はこちら)が、あえてグローバルでは主流ではないアクセラレーター型を採用した背景について教えてください。
アクセラレーター型のメリットとしては、サーチャーが「単一の」投資家から力強いハンズオンの支援を受けられることにあると考えており、特にM&Aのプロセスで専門的な箇所をサポートできる投資家がいれば、PE投資に精通した人材が少ない日本でもサーチファンドは普及していくだろうという見立てがありました。
また、SFJ立ち上げ当時は、日本ではサーチファンド黎明期であり、サーチファンドに対して継続的に投資を行う投資家が殆ど存在しなかったため、単独の投資家として資金提供を行うアクセラレーター型を採用せざるをえなかったという事情もあります。
これらを踏まえて、M&Aの専門的な部分は投資家としてバックアップを行い、サーチャーには経営者としての事業の見立て、経営戦略の策定、投資後の経営実行に集中できる環境を提供したいと考え、アクセラレーター型を採用したという経緯があります。
-ありがとうございます。当時はサーチファンド黎明期ということもあり、現在のスキームとなったのですね。
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▼伊藤公健(サーチファンド・ジャパン 代表取締役) インタビュー