Interview #
10
2025
年
2
月
ポストCXOとしてのサーチャーキャリア
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藤井健(コスメプロ代表取締役) x 大串庄一(サーチャー)
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-ここまでお話を伺って改めてのご質問ではありますが、お二人は経営者として必要なスキルセットやマインドセットは何だとお考えでしょうか?
(藤井)もちろん種々のスキルはあって困りませんが、より重要なのはマインドセットだと考えていて、特に経営者にはラストマンシップが必要だと思います。一方で、社長だから全ての責任があり、新卒社員は何も責任を追わなくてよいという話ではないとも考えており、社内でのポジションは人それぞれとすると、あくまでも各々の責任の範囲の大小の話だと思っています。
それぞれの持ち場で全うしなければいけない責任があり、それが課長になり、部長になり、役員になり、社長になるにつれて範囲が広がっていくだけとすると、広がった責任を引き受けようと思うマインドセットが経営者には必要ですね。
(大串)私も同感です。
中小企業であれば、一定の規模に到達するまでは、経営者という個の力が会社に与える影響は非常に大きいと思いますし、自身がCXO時代に実感したことでもあります。
新卒時代に、CEOとは「Chief Everything Officer」だと学びまして、つまり全責任は社長にあるというマインド、例えるなら雨が降っても自分の責任だと捉えられる覚悟は必要なのだと思っています。
-様々なスキルセットをお持ちのお二人ですが、やはりマインドセットが重要とお考えなんですね。
-これまでお話をお伺いしていると、様々なキャリアでお二人に経営者としての素養が培われ、スタートアップでのCXOキャリアが「実践」の場としてあり、サーチャーとしての道が切り拓かれていったのだと感じました。
とはいえ、当時の経験を横展開してサーチャーとしてご活躍される中で、スタートアップのCXOと中小企業の経営者では異なる部分も多くあるかと思います。
いわゆるゼロイチで事業を立ち上げるスタートアップCXOキャリアとサーチャーとして既存の中小企業を承継し経営者となることの違いについては、どのようにお考えでしょうか。
(藤井)スタートアップと既存事業のある中小企業の大きな違いは、会社の根幹をなす組織や事業をこれから作っていくのか、それがすでに存在しているのかという違いが最も大きいと思います。事業面と組織面でお話しすると、スタートアップであれば事業をゼロベースから少しずつ大きくしながら、人も徐々に増えてゆき、組織として形になってくる。皆で議論を重ね、事業も組織も全てを自分達で作っていくことができます。
他方、サーチファンドの仕組みでは既存の事業がある組織の中に外様社長として入っていくこととなり、自身の関わり方が全く異なりますよね。その際には、既存のカルチャーへのリスペクトを持つことが大事だと考えています。例えば、私が承継させていただいたコスメプロ社は40年近い歴史があり、事業を立ち上げた方、関わってきた社員の皆さんにとっては会社の歴史が人生そのものという方がたくさんいらっしゃいます。その思いを第一にしながら、会社を成長させていきたいと考えています。
(大串)私は承継前ですので、これまでのキャリアで見てきた中小企業とスタートアップという文脈でお話しすると、大きな違いは藤井さんと同感で、既存の事業や組織がある点ですね。事業面では、ゼロイチのフェーズは、事業を立ち上げる確たる方法論や最適解がないという意味で「アート」の側面が強いのに対し、サーチファンドの仕組みで引き継ぐ場合はすでに確立された事業をより成長させていく「サイエンス」の部分が重視されるように感じられ、よりロジカルな思考が求められると思っています。
組織面では、承継させていただく会社の組織が本当に様々で、従業員が1名の会社もあれば、 何十人という会社もあるので、会社のフェーズと組織に合わせて入っていく想定でおりますが、やはり既存の組織を変えていくことと、新しく作っていくことには大きな違いがあると思います。
-CXOキャリアとサーチャーは経営という共通項はあるものの、おっしゃる通りご自身の関わり方は大きく異なりますね。
-ところで、本日はサーチャーとして現在違うフェーズにいるお二人をお招きしております。サーチ活動を終えた先輩サーチャーとして藤井さんから大串さんへメッセージがあればお願いします。
(藤井)私自身サーチ活動は約1年経験しまして、様々な会社様を承継候補として検討させていただきました。自分の経験に完全にマッチした会社様とご縁があれば良いのですが、青い鳥探しになる可能性は否めません。一つアドバイスをさせていただくとすれば、これは私の中での判断軸でもあったのですが、大串さんご自身がその会社様を承継したあとに具体的に「社長として経営していくイメージ」が沸くことが最も大事だと思います。
(大串)私自身も経験のない業界も検討する中で、どのようにイメージをつけていくのかは悩んでいました。藤井さんが化粧品業界に飛び込もうと思われた意思決定はどのように行ったのでしょうか。
(藤井)イメージのつけ方は人それぞれかもしれませんが、私の場合は事業を分解した時に、今までの自分の経験とどこまで重なるかを考えました。例えば、化粧品の製造現場そのものの経験はなかったものの、ソフトバンク時代に修理工場の立ち上げに関与した経験はありました。また、化粧品原料の開発経験や、消費財流通や商材の売り方への理解は消費財メーカーにいた経験からイメージが湧いていました。自分の経験の寄せ集めで解像度が上がっていったのだと思います。
サーチ活動に明確な解はないと思いますので、大串さんが「ここだ!」と思われた会社とご縁があって承継が実現されることを心から願っています。
-最後にスタートアップで働いている方でサーチャーに興味を持っている方にメッセージをお願いします。
(藤井)CXOとしての経験と社長としての経験は、オペレーションの観点からは大きく通じるものがあると思います。
一方で、CXOとしての経営への関わり方と経営者としての関わり方は近いようで異なっています。例えばCXOに最終の意思決定の権限はないですし、仮に意見が分かれた時に判断するのは社長です。 そこは、ラストマンシップの観点から大きな差異があると思います。
サーチャーは大きな責任が伴うため、万人に勧められるキャリアではありませんが、全力でチャレンジする価値があると思います。
サーチファンド・ジャパンでは、兼業でサーチャーを行う助走期間を設けており、ご自身がサーチャーというキャリアに身を投じてよいのか意思決定の猶予期間があるので、まずは何より一回チャレンジをしてみたらどうでしょうか。
(大串)私も同感です。サーチャーは魅力的なキャリアではあるので、ぜひチャレンジしていただきたいです。
障壁があるとすれば、スタートアップと中小企業のカルチャーの違いやM&Aプロセスへの理解になるかなと思いますが、前者については、サーチ活動の過程で中小企業のカルチャーを知っていくことができると思いますし、後者については、サーチファンド・ジャパンというM&Aの専門家のサポートを受けられるので安心して飛び込むことができると思います。
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